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【法律コラム】故意を争う事件
刑事弁護をやっていると、事実に争いはないが、犯罪を犯す故意がなかったという事件は結構あります。
やるつもりでやったというのが故意です。わかりやすいのが殺人と傷害致死の違いです。人が死んでも殺すつもりでなければ殺人の故意がないので殺人としては無罪です。
刑法犯の大半は故意犯で、過失犯が処罰されるのは例外的です。
被疑事実を認めない場合を否認事件といいますが、否認事件の中で半分以上は故意を争う事件ではないかという気がします。
故意を争う事件というのは客観的事実については争いがないわけですので、捜査側のストーリーに沿った被疑者の供述をとることが捜査の主目的となりがちです。
「調書裁判」が批判されて久しいですが、未だに一度とられた供述調書の内容を公判で争うというのは相当の困難が伴います。
ということは、被疑者段階での起訴前弁護が重要ということです。
私の感覚では故意を争った事件で否認を貫いた場合半分くらいは不起訴になっている感じがします(数えたわけではないので、感じです)。
もちろん、それらの事件は私が被疑者と話していてやはり故意はなかったんだなと思うような事件でした。
うそをついているとやはり話に矛盾が生じますし、検察官も被疑者のうそを見抜く仕事のようなものですから、やはりばれます。
逮捕されるともう有罪だというふうに思う人が多いと思いますが、逆に真実故意がないなら話が一貫してますし、故意を推認させるような証拠も出てこず、検察官も公判維持がむずかしいと考えますので、不起訴になる可能性は一般の人が思うより高いです。
被疑者国選が付く事件では当然担当弁護士に相談することになりますが、そうでない場合は早めに弁護士に相談されることが必要だと思います。
文責:弁護士 北嶋太郎
【法律コラム】認知と養育費
結婚していない男女に生まれた子供の養育費を貰うためには、まず父親に認知をして貰う必要が有ります。父親がこれを拒否する場合、調停等の手続きによることになって認知まで時間がかかることがあります。
このような場合、出生した日にさかのぼって過去の分まで養育費を請求することを認めた判例が大阪高等裁判所平成16年5月19日決定です。
同決定によれば
1 養育費分担の始期について
・・・未成年者の養育費については,その出生時に遡って相手方の分担額を定めるのが相当である。
原審判は,抗告人が養育費の支払を求めた平成14年6月を分担の始期としているが,未成年者の認知審判確定前に,抗告人が相手方に未成年者の養育費の支払を求める法律上の根拠はなかったのであるから,上記請求時をもって 分担の始期とすることに合理的な根拠があるとは考えられない。本件のように,幼児について認知審判が確定し,その確定の直後にその養育費分担調停の申立てがされた場合には,民法784条の認知の遡及効の規定に従い,認知された幼児の出生時に遡って分担額を定めるのが相当である。
ということです。注意しなければならないのが、「その確定の直後にその養育費分担調停の申立てがされた場合には」という前提が付いていることです。
判例のケースがどのくらい直後だったかというと、審判の確定が平成15年3月21日、戸籍の届け出が同4月2日、調停申し立てが同4月19日です。
どのくらい後ならダメなのかというのははっきりしませんが、認知が成立したらすぐ養育費の請求をすることを考えておいた方がいいと思います。
文責:弁護士 北嶋太郎
【法律コラム】被害届の取り下げ
犯罪被害にあったとき警察に被害届を出すことになると思います。
被害届自体を受理してくれないということがよく問題になり、警察庁から受理するようにとの通達が出ているようですが、
http://www.npa.go.jp/pdc/notification/keiji.htm#keiki
被害届を受理してもらったあとにいろいろ考えて事件にしたくないということでやはり取り下げるということはあると思います。
家庭内のDV等で暗に取り下げるよう警察にいわれることもあるのではないでしょうか。
一度被害届を取り下げて、やっぱり泣き寝入りしたくない、と思った場合もう処罰してもらえないのでしょうか。
そもそも被害届とは何かというと、捜査機関以外の者による捜査の端緒(きっかけ)の一つで法規定のない場合で「被害申告のみであって告訴のような訴追の意思表示のないものである」とされています(田口守一「刑事訴訟法」第4版P65)。
意思表示でないということは、単なる事実行為であって、厳密には取り下げということが観念できないのではないかと思います。
被害の申告はもう行われていますから、警察には捜査のきっかけが与えられているわけです。被害届を取り下げたからと言って被害が申告されたという事実が消えるわけではありません。
従って、一度被害届を取り下げても再度やはり泣き寝入りしたくないということで捜査を求めることや告訴をすることはできるはずです。
にもかかわらず、一度被害届を取り下げたのだからもう捜査できないと警察で言われることもあるようです。
弁護士を通じ場合によっては告訴も辞さないということでないとなかなか動いてくれないということもあるようですね。
文責:弁護士 北嶋太郎
【法律コラム】養育費・婚姻費用の基準
養育費・婚姻費用(以下養育費等)をいくら請求できるか、ということについて、法律に決まりはありません。
裁判所では裁判官の共同研究で作成されたという養育費・婚姻費用算定表が事実上の基準として使用されています。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/
裁判所のホームページにも記載されていますので、もはや公式基準と言ってもよいでしょう。
この算定表は簡単に言えば請求する人の収入と払う人の収入及び子どもの年齢・数によって機械的に養育費等が算出できるようにしたものです。
これによって裁判所がどれぐらいの額を認めるのか、基本的に予測が付くようになりました。
しかし、この表によって算出される養育費等は基本的に少なすぎるという問題があります。
日弁連でも問題があると言うことで意見書を出しているところですが
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2012/120315_9.html
生活保護との整合性も考慮されておらず、子どもの貧困を固定化しているといわれています。
しかし、算定表は裁判所で定着していますので、実務上は算定表を基準に判断されることを前提に考えなければいけない状況です。
算定表によって算出される養育費等が少ないのは、算定表の基礎になる計算式が不合理だからです。
前記意見書では、算定表の不合理性として、1公租公課の算出における不合理性 2職業費の算出における不合理性 3特別経費算出の不合理性 4生活費指数の不合理性 5算定表化における不合理性 があげられています。
算定表が定着している以上、漠然と算定表がおかしいと言っても仕方がありませんので、算定表の基礎になる計算式を個々の事例に当てはめて、不合理性を主張する必要が有ります。
とはいえ、定着した実務の壁は厚く、結果的には算定表の幅でおさまってしまうかもしれませんが、相手方の譲歩を引き出すためにも主張する必要はあります。また、主張し続けることで漫然と算定表を利用してきた裁判所実務を変えていくことにもつながるのではないかと考えています。
文責:弁護士 北嶋太郎
【法律コラム】破産の費用
破産というのは債務を返済することが困難になった人がするものですが、破産をするのにも費用がいります。
破産の手続きは本人でもできるという建前になっていますが、実際問題自分でやるのは大変だと思いますので、弁護士に依頼する人が多いと思います。
まず、弁護士費用がいることになります(報酬は自由化されましたので、事務所ごとに違います)。
財産があったり浪費等調査すべきことが有る場合は裁判所が管財人を任命することがあります。
その場合管財人の報酬として少なくとも20万円かかります。
また、印紙代、切手代、官報に載せるための費用でだいたい2万円ぐらいかかります。
では、それらの費用がない場合はどうすればよいでしょうか。
弁護士費用については法テラスの援助が受けられる場合があります。ただし、収入基準がありますので、借金は多いが収入もある程度あるという人は受けられません。また、援助事件を扱っていない弁護士は当然援助ではやってくれません(当事務所では援助事件を取り扱っています)。その場合弁護士費用を分割払いさせてもらうか、積み立ててから依頼するということになるでしょう。
管財人の費用は今のところ、生活保護受給者以外は法テラスでは援助してくれません。
完全にお金が無くなってから破産を急にやろうと思ってもできないことがあります・・・
収入が保護基準以下の方の場合はまず生活保護の手続きをお手伝いさせて貰ってから破産を申し立てるということもありますが、できるだけ余裕のある内に弁護士に相談して貰った方が望ましいです。
文責:弁護士 北嶋太郎
【法律コラム】性犯罪の慰謝料
強制わいせつ、強姦など女性に対する卑劣な犯罪にあわれた方の相談を受けたときに、弁護士としてもお答えしにくい質問が、犯人にいくら慰謝料を払わせることができるか、という質問です。
判例秘書という弁護士が利用する判例のデータベースがありますが、それによると行為自体による慰謝料だけだと百万円から数百万円でおさまるケースが多いようです。
もっとも、その根拠はよくわかりません。判決には事案によれば慰謝料としてはその額が相当であると書いてあるだけです。
慰謝料としてどれぐらいの額が相当なのかは交通事故の場合ある程度裁判所が参考にする基準が定まっていますが、性犯罪の慰謝料の場合基準が無く、完全に裁量になってしまっています。(怪我したり障害が残ったりしたことに対する慰謝料は別です。交通事故に準拠して考えることができます)
そして、裁判所が相当とする額は今までの判例を見ると、基本的に被害者感覚からすれば少ないといえると思います。
もっとも、性犯罪の場合多くの事案が示談や和解で決着しており、その場合の金額はむしろ加害者の資力と失う社会的地位によるところが大きいと思います。
このようなことから、性犯罪の加害者にいくら支払わせることができるかは、一律にはいえないというのが現状です。
また、裁判所も性犯罪に対する認識が変わってきているように思います。近年裁判員制度の導入もあり、性犯罪に対して刑事では厳しい処分が下されることが多くなってきたようです。
民事裁判でも、10年前の判例と比べて、同じような事案で認められる慰謝料が多くなってきたように感じます。
被害者による請求の積み重ねにより、裁判所も変わっていくのではないかと考えています。
文責:弁護士 北嶋太郎
【法律コラム】忘れていた借金
10年とか20年とか前に借りて返さないままになっていた借金の請求がいきなり来たというご相談がときどきあります。
商事債権は5年で時効になりますが、それを知らない借り主から回収しようと古い債権を譲り受けてくる業者があるようです。
借りたときは少額でも10年とか20年とか経つと法定利息でもかなりの利息が付いてしまいます。
驚いて業者に電話をすると少しでも払ってほしい等言われて払ってしまう場合があるようですが、少しでも支払ってしまうと「時効の中断」があったと主張されてしまいます。
時効は主張しないと適用されませんので、昔の借金の請求をされた場合は「時効の援用」をする必要が有ります。
また、最近裁判所を通じて支払督促等を申し立ててくる業者もあるようですが、裁判所から来た手紙を無視するとそのまま申立が確定してしまいますので、決して無視してはいけません。
古い借金の請求が来た場合は業者に連絡せず、弁護士にすぐご相談ください。
当事務所では時効の援用手続や訴訟対応を行っております。
少額の弁済をしてしまった場合でも信義則上時効を援用することが許されるとした判決もありますので、弁済をしてしまった方もあきらめずにご相談ください。
文責:弁護士 北嶋太郎